わたしは長女の部屋に




 とNちゃん。まずは次女の部屋へ。しばらくしてRちゃん到着。

 苺、マンゴー、ブルーベリー、牛乳のスムージーをつくり次女の部屋に運ぶ。ドアを開けた途端、3人の顔が真顔になるものの、たちまちニヤける。ふたりとも夏期講習の休みにはいってから、はじめての外出だとか。

 一人で机に向かっていれば勉強は捗るだろうが、とりとめのない話をしながら笑える時間もきっと大事。楽しそう。

 台所でおやつを用意する。勉強道具を抱えた3人が居間にきて、ダイニングテーブルのうえはノート、プリントが広がってゆく。

 おやつをテーブルに置いたそのときは、すでにみんな真剣な顔。なんという切り替えの早さ。胸の内で拍手を贈る。



 大学生の長女は夕方から友人らと花火大会へ出かける予定。

 そんなわけで、にわか美容師となり、浴衣の着付けとヘアーアレンジの注文を受ける。

「両サイドから編み込んだまとめ髪でお願いします」「はい、かしこまりました」

 さっさか髪を結う。「さあ、着付けましょう」。1年ぶりに締める帯は蝶々結び。助手はインターネットの動画サイトだ。

 今年で4回目のにわか美容室。浴衣の着付け、帯の結び方は覚えたようでいて、なかなか身につかない。気をつける点は着崩れて衿がはだけないように。裾が広がらないように。かといって紐や帯は締めすぎていはいけない。

「苦しくない?」訊き訊き結んでゆく。

「はい、できました。苦しくない?」

「うん、苦しくない。ありがとう」

 

 中学生たちが羨まし気に大学生を見送る。

「今年はしかたないよね」慰めの言葉をかける間もなかった。長女を見送るや、彼女たちから羨ましさは消えていた。いまは進む道を切り開くべく、力を尽くすときだと知っている。すでに自らの力で自らのために進んでいるのだ。

 子どもはみんな遊びたいだろうだなんて……、慰めようだなんて……。頓珍漢なこと言わなくてよかった。

 逞しい姿を横目に感じつつ、鍋に水を張り昆布と煮干しを入れる。そして長女の部屋で読みさしの本を開いた。 

 

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